室生寺の仁王門をくぐって少し進んだ先には、鎧坂(よろいざか)と呼ばれる急な石段があります。
鎧坂を登り切った場所は平地になっていて、そこに弥勒堂(みろくどう)が建っています。
弥勒堂の名前からわかりますが、弥勒堂の本尊は弥勒菩薩立像で、
室生寺で現存する最古の仏像です。
この記事では弥勒堂とその本尊・弥勒菩薩立像の特徴を紹介します。
室生寺弥勒堂の建築の概要
室生寺弥勒堂は、鎧坂を登った平地に建っています。
桁行3間、梁間3間の鎌倉時代の建築で、重要文化財に指定されています。
南向き(鎧坂がある方角)だったものを、室町時代に東向きに改造しています。
江戸時代にも改修が行われていて、当初の部分が残るのは方1間の内陣のみのようです。
屋根は入母屋造、杮葺(こけらぶき)です。
杮葺はヒノキやサワラの樹皮を薄く重ねたものです。
弥勒堂の本尊は、お堂の名称からもわかるとおり弥勒菩薩です。
弥勒堂の本尊・弥勒菩薩立像の特徴は?
室生寺弥勒堂 弥勒菩薩立像
- 員数:1躯
- 文化財指定:重要文化財
- 時代・年代:奈良時代後期~平安時代初期
- 素材・技法:木造(カヤの一木造)
- 像高:94.4cm
弥勒堂の本尊は弥勒菩薩立像で、厨子の中に安置されている檀像(だんぞう)風の仏像です。
重要文化財に指定されています。
檀像とは白檀などの香木を用いて造られた仏像のことですが、白檀は日本には自生していません。
そのため日本では天平時代(奈良時代)以来、木目の細かい材を白檀の代用材として使用してきました。
弥勒堂の弥勒菩薩立像は白檀の代用材に使用されることが多い榧(カヤ)で造像されています。
一木造(いちぼくづくり)という技法で造られています。
一木造は文字通り1本の木から彫られた仏像のことを意味しますが、像全体を1本の木から彫り出して造られた仏像は少なく、
一般的には頭部と胴体部分が1本の木で造られている仏像を一木造と呼びます。
弥勒菩薩立像の場合は頭部から足先まではもちろん、両手、肩から腕にかけて垂れる天衣(てんね)、
首飾りである瓔珞(ようらく)、踏み台にしている蓮華座の上半分までが一木で造られています。
頭にかぶっている宝冠や天衣の一部は後補ですが、全体的な保存状態は良好です。
彩色をほとんど施さないことも檀像の特徴です。
弥勒菩薩立像は木の地肌が見えていますが、これは彩色が剥落したわけではなく、もともとほとんど彩色されていません。
髪、眉、髭、瞳、白眼、唇のみを彩色あるいは墨書きし、それ以外の部分は色を塗らずに素地で仕上げています。
両脚部に見られる円弧状の衣文や面相の特徴は、奈良時代後期に見られることから
奈良時代後期~平安時代初期に造像されたと推測されています。
室生寺で現存最古の建造物は五重塔ですが、現存最古の仏像は弥勒堂の弥勒菩薩立像です。
弥勒堂内陣の向かって右側には釈迦如来坐像が安置されています。
釈迦如来坐像は平安時代初期の仏像で国宝に指定されています。
詳細は別記事で紹介しています。
向かって左側には神変大菩薩(役小角)が祀られています。
役小角(えんのおづの)は、日本古来の山岳信仰と仏教が合わさって生まれた修験道(しゅげんどう)の開祖とされる人物です。
修験道では山岳修行を行うことから、その開祖である役小角は山岳寺院に祀られることが多く、
室生山の山麓から中腹に境内が広がる室生寺に、役小角像が祀られていることは興味深く感じられます。
最後に弥勒堂の拝観所要時間に触れます。
室生寺弥勒堂の拝観所要時間は?
弥勒堂は通年拝観可能ですが、お堂の内部に立ち入ることができません。
屋外から内部に安置されている仏像を拝観することになります。
拝観所要時間の目安は3分程度です。
寺院建築や仏像に興味があれば、もっと時間をかける人もいるでしょう。
弥勒堂の拝観後は、金堂の参拝が済んでいなければ金堂へ、済んでいれば本堂(灌頂堂)へ向かいましょう。
最後まで読んでくださりありがとうございました。