東大寺戒壇院(かいだんいん)には国宝指定されている四天王像が安置されています。
すぐれた写実的な表現が評価されていますが、大仏殿から離れた位置にあって、
さらに拝観が有料であるからか拝観者が少なく仏像に興味がない参拝者が拝観しに行かない像です。
この記事では大仏の拝観でにぎわう東大寺の中で、少しマニアックな戒壇院に安置されている四天王像と
四天王像の戒壇院内部の配置について紹介します。
東大寺戒壇院(戒壇堂)の塑像・四天王像とは?
東大寺戒壇院 四天王像
- 躯数:4躯
- 指定:国宝(4躯すべて)
- 材質:塑造、彩色
- 造像:8世紀中頃(奈良時代)
- 持国天像の像高:160.5cm
- 増長天像の像高:162.2cm
- 広目天像の像高:169.9cm
- 多聞天像の像高:164.5cm
戒壇院の四天王像は4躯とも等身大の像です。
四天王像は手先や足先に補修や後補の部分があるものの、脆い塑像としては保存状態が良好です。
一見彩色されていないように見えますが、もとは鮮やかに彩色されていました。
四天王像の瞳には石が埋め込まれ、他の部分と別材で表現されています。
もともとあった光背は、現存していません。
持国天と増長天は憤怒の形相で、感情をあらわにしているのに対し、
広目天と多聞天は、目を睨むように細めています。
感情を表出していない分、広目天や多聞天の方が想像力をかきたてられて怖いです(笑)
表情だけでなく体の動作も対照的で、
憤怒の表情の持国天と増長天が片足を踏み上げているのに対し、広目天と多聞天は片脚を開く静かなポーズです。
足を踏み上げる時に邪鬼が土台となっていい仕事をしてますね!
持国天と増長天は踏み上げる脚が左右対称で、広目天と多聞天も広げる脚が左右対称です。
鎧の表現では、持国天と多聞天が花飾りをつける共通の表現で、増長天と多聞天は花飾りをつけていません。
このように戒壇院の四天王像には対照表現が見られ、4躯そろって配置された時に美しい群像となるよう構成されていますが、
各像の口に結び方や腕の動作に変化をつけることで、 各像が型にはまらないように造像されています。
戒壇院の四天王像は秀逸な写実表現から法華堂の塑像とともに奈良時代の塑像の最高水準であると評価されています。
奈良時代に戒壇院が創建された時に安置されていた四天王像は銅造です。
現在、戒壇院に安置されている画像の四天王像は塑造なので、元々戒壇院に安置されていた仏像ではありません。
東大寺戒壇院は奈良時代に創建された建造物ですが、現在の戒壇院の建物は奈良時代当初のまま現存しているわけではなく、
1732年に再建されたものです。
戒壇院に現在安置されている塑造の四天王像は、戒壇院の再建時に別のお堂から移されて戒壇院に祀られるようになったようです。
どこのお堂から四天王像が移されたかは断言できないようですが、以前は法華堂に安置されていたと推測されています。
現在も法華堂に安置されている塑造の執金剛神像や
近年まで法華堂に安置されていた塑造の日光・月光菩薩立像とともに安置されていた可能性が高いと見られています。
続いて戒壇院内部の四天王像の配置を図で示しながら説明します。
東大寺戒壇院の四天王像の配置図は?
戒壇院のお堂の内部には壇があり、図の黒い枠線が壇を示しています。
(イメージ図なので縮尺は正確ではありません)
壇上の中央には多宝塔が置かれています。
四天王像は多宝塔を囲むようにの四隅に配置されています。
戒壇院の入口は図の下側にあります。
方角は図の上側が北です。
配置図の丸の中の文字は像の名前の頭文字です。
- 「広」が広目天で、向かって左奥(北西)に配置
- 「多」が多聞天で、向かって右奥(北東)に配置
- 「増」が増長天で、向かって左前(南西)に配置
- 「持」が持国天で、向かって右前(南東)に配置
戒壇院の四天王の中でもとりわけ人気の高い広目天は左奥に安置されています。
戒壇院では参拝者は壇の周りを回ることができるので、
お堂の奥の方に安置される広目天や多聞天もそれなりに近い位置から拝観することができます。
ただし四天王像が安置されている位置は少し高いので、視線の高さを合わせづらいです。
広目天像が好きな方の中には睨まれたい!と思う方もいますが、
広目天の視線を釘付けにするのは(物理的に)難しいですよ!(笑)
ちなみに四天王像は4躯とも、南側(配置図の下側)を向いた状態で安置されています。
ところで、戒壇院に安置されている仏像は四天王像だけではありません。
戒壇院の仏像配置図の多宝塔の所に描いた2つの丸印は戒壇院伝来の重要文化財の仏像2躯です。
- 「多」が銅造多宝如来坐像(多聞天と頭文字被ってますね…汗)
- 「釈」が銅造釈迦如来坐像
上記の2像も戒壇院の仏像です。
2躯の如来坐像の詳細を紹介します。
東大寺戒壇院には重要文化財の多宝・釈迦如来像も伝来する?
東大寺戒壇院伝来の多宝如来坐像
- 指定:重要文化財
- 材質:銅造、鍍金
- 像高:24.2cm
- 造像:奈良時代(8世紀)
東大寺戒壇院伝来の釈迦如来坐像
- 指定:重要文化財
- 材質:銅造、鍍金
- 像高:25.0cm
- 造像:奈良時代(8世紀)
両像とも2013年6月19日に重要文化財に指定されました。
釈迦如来は右肩をはだけた偏袒右肩(へんたんうけん)なのに対し、多宝如来は両肩を衣で覆って着る通肩(つうけん)です。
両像とも一鋳で造像されています。
肉厚の肉身表現は国宝指定されている東大寺誕生釈迦如来立像に共通するもので、
誕生釈迦如来立像と同様に8世紀後半の造像と推定されています。
小像ながらムッチリとした肉付きの良いお体をされていることがよくわかります。
多宝如来坐像と釈迦如来坐像は、東大寺戒壇院創建期の本尊である可能性が高いと見られています。
ただし現在の戒壇院に安置されている多宝如来坐像と釈迦如来坐像は、
戒壇院創建当初から存在するものではなく、江戸時代に造られた木造です。
この木造の2躯は奈良時代の銅造の2躯を模して造像されたものです。
奈良時代の銅造多宝如来坐像・銅造釈迦如来坐像は東大寺ミュージアムに安置されていて、
戒壇院で拝観することはできません。
↑戒壇院の拝観情報はです。