室生寺金堂に安置される仏像のうち、国宝・十一面観音菩薩立像と
重文・地蔵菩薩立像、重文・薬師如来立像、重文・文殊菩薩立像を紹介します。
金堂の本尊の国宝・伝釈迦如来立像と重文・十二神将軍は別記事で紹介しています。
はじめに、十一面観音の特徴について触れます。
室生寺の国宝・十一面観音は金堂本尊の当初からの脇侍?
室生寺金堂 十一面観音菩薩立像
- 員数:1躯
- 文化財指定:国宝
- 時代・年代:平安時代初期(9世紀)
- 素材・技法:木造(カヤの一木造)、彩色
- 像高:196.2cm
国宝・十一面観音菩薩立像は、肉付きがよくふっくらとした顔立ちから女性的だと評されることが多いです。
唇の朱色が女性らしいイメージをさらに強めます。
金堂内陣の向かって左端に安置されています。
天衣(てんね)や条帛(じょうはく)の襞を平行に整えられているので装飾的な印象を受けます。
腰から下を長く造る長身のプロポーションや衣文線を浅く平行に整えている点は、
本尊・伝釈迦如来立像と共通する特徴です。
本尊と作風や彫り方が少し異なりますが、造像された時代はそれほど変わらないと思われ、
本尊の当初からの脇侍だと考えられています。
台座は八重蓮華座と呼ばれるもので、後補の部分はあるものの、平安時代前期の様式を現代に伝えています。
鮮やかな板光背を持ちますが、これは後補です。
滋賀県長浜市にある渡岸寺の国宝・十一面観音が妖艶な雰囲気を醸し出すセクシー路線の仏像なら
室生寺金堂の国宝・十一面観音はかわいい系の路線の女性らしさが出ています。
日本の観音像には女性らしさを感じられる作例が少なくありませんが、
その中でも室生寺の十一面観音は特に女性的な仏像だと思います。
室生寺金堂の当初の地蔵菩薩は安産寺に移動した?
室生寺金堂 地蔵菩薩立像
- 員数:1躯
- 文化財指定:重要文化財
- 時代・年代:平安時代前期
- 素材・技法:木造、彩色
- 像高:160.0cm
金堂の地蔵菩薩立像は、金堂内陣の向かって右端に安置されています。
平安時代前期の仏像の特徴が見られる像です。
地蔵菩薩立像は像本体の大きさに対し、光背が大きすぎて釣り合っていません。
光背は室生寺金堂の本尊のものに近く、本来は別の仏像の光背として造られたものであることがわかります。
室生寺の最寄り駅は近鉄大阪線「室生口大野駅」ですが、
その隣にある「三本松駅」の近く(室生三本松中村区)に子安地蔵を祭る安産寺があります。
安産寺には、本尊として重要文化財の地蔵菩薩立像が祀られています。
安産寺の地蔵菩薩立像は作風が、室生寺金堂の本尊・伝釈迦如来立像と似ていることと
像の大きさが金堂の地蔵菩薩の光背のサイズと一致するため、
当初は室生寺金堂の本尊の脇侍として造られたものと考えられています。
室生寺の薬師如来と文殊菩薩は当初から金堂にあった像ではない?
室生寺金堂 薬師如来立像
- 員数:1躯
- 文化財指定:重要文化財
- 時代・年代:10世紀
- 素材・技法:木造(一木造)、彩色
- 像高:164.0cm
薬師如来立像には翻波式衣文が見られません。
像の大きさや作風の違いから、金堂の国宝・伝釈迦如来立像や国宝・十一面観音菩薩立像とは
造像された時代が異なると推測されます。
また、薬師如来立像は当初から金堂で祀られていたわけではなく、別のお堂から移されたと見られています。
室生寺金堂 文殊菩薩立像
- 員数:1躯
- 文化財指定:重要文化財
- 時代・年代:10世紀
- 素材・技法:木造(一木造)、彩色
- 像高:205.3cm
金堂内陣の仏像の中で、本尊・伝釈迦如来立像についで大きいのが文殊菩薩立像です。
文殊菩薩立像の表情や衣文の彫法は、金堂の伝釈迦如来立像や十一面観音菩薩立像と比較すると優しくて、
藤原時代の過渡期的な仏像の特徴が見られます。
もとは別のお堂に祀られていたものが金堂に移されたと見られています。
文殊菩薩立像と同じく別のお堂から移されたとされる薬師如来立像とは、
大きさや作風の違いから一具の仏像というわけではなさそうです。
室生寺金堂のその他の仏像
金堂内には他にも仏像が安置されているので紹介します。
金堂内陣の外側の向かって右端には蔵王権現立像が安置されています。
反対側の向かって左端には聖観音菩薩立像が安置されています。
両像とも2mぐらいある像ですが、どちらも文化財指定されていません。
蔵王権現像が安置されていることは、室生寺弥勒堂に役小角像が祀られていることと合わせて
山岳寺院らしさを感じさせられます。