室生寺金堂の内陣には平安時代の5躯の仏像が安置されていて、
その前列には鎌倉時代の十二神将が並びます。
後列の5躯の光背は後世の補作もありますが、
すべて板光背で、そこに描かれている紋様は鮮やかで美しいです。
金堂の国宝・十一面観音菩薩立像をはじめとしたその他の仏像は別記事で紹介しています。
この記事では金堂の本尊の国宝・釈迦如来立像と重文・十二神将立像を紹介します。
室生寺金堂の仏像は寄せ集め?横並びを見れば凸凹してる
室生寺金堂は平安時代に建立された仏堂です。
現在、金堂の内陣に安置される十二神将以外の仏像はどれも平安時代の仏像ですが、
内陣に横並びに安置されている様子を見ると、像本体の大きさがバラバラで凸凹しています。
所せましと並ぶ諸尊は窮屈そうにも見えます。
作風の違いからもすべてが一具の仏像ではないと考えられています。
金堂の仏像は、他所から集められた仏像が多いのです。
作風に統一感がなくても、みんな違ってみんないいのが金堂の仏像の魅力です。
ますは、本尊の釈迦如来立像の特徴を見てみましょう。
室生寺金堂の本尊・釈迦如来立像の正体は薬師如来?
室生寺金堂 釈迦如来立像
- 員数:1躯
- 文化財指定:国宝
- 時代・年代:平安時代初期(9世紀)
- 素材・技法:木造(カヤの一木造)、彩色
- 像高:234.8cm
釈迦如来立像は、室生寺金堂の本尊です。
カヤの一木造で、頭部から足先までが一材で彫り出されています。
顔や胸周りが黒いのは漆によるものですが、これは後世の補修とされています。
衣の朱色はベンガラで彩られたものです。
腰回りから股下にかけてのY字型の衣文部分には、漣波式衣文(れんぱしきえもん)
または複翻波式衣文(ふくほんぱしきえもん)と呼ばれる衣文が見られます。
漣波式衣文は、大きめの丸みのある襞(ひだ)1本と小ぶりで鋭く鎬だった襞2本をセットにしたもので、
この3本の襞のセットが繰り返し彫られたもののことを指します。
漣波式衣文は、非常に珍しい形式の衣文で室生寺様と呼ばれています。
大衣の衣文の稜線にそって截金(きりかね)が置かれているのも、この像の独特な点と言えるでしょう。
金堂の虹梁(こうりょうの)の上の板の蟇股(かえるまた)の部分に薬師如来の持物である薬壺が刻まれていることや
光背に七仏薬師が描かれていることから、現在、釈迦如来とされている金堂の本尊は、
もとは薬師如来として造られた像だったことがわかります。
板光背には七仏薬師の他にも宝相華(ほうぞうげ)、唐草文などが極彩色で描かれていて華やかです。
室生寺金堂の十二神将の一部は奈良国立博物館に寄託
室生寺金堂 十二神将立像
- 員数:12躯
- 文化財指定:重要文化財
- 時代・年代:鎌倉時代後期
- 素材・技法:木造(ヒノキの寄木造)、彩色、玉眼
- 像高:95.4~104.8cm
十二神将像は薬師如来の眷属の武将です。
平安時代後期からは十二支と結びついたため、頭上に干支の動物を1体ずつ乗せていますが、
室生寺金堂の十二神将のうち子神と辰神は頭上の動物を亡失しています。
ですが全体的な保存状態は良くて、台座はすべて造像当初のものです。
ただし持物は後補です。
表情、手足の筋肉の表現、姿態に誇張や省略が見られることや
衣が厚手に彫られていることなどから鎌倉時代中期から後期の作と推測されています。
神将はそれぞれ表情や姿態以外にも頭髪や鎧の形態に変化をつけていて
群像として画一的にならないよう工夫されています。
拳を高く突きあげる午神がインパクトがあって目立ちます。
12体のうち未神と辰神(とされる神将)の2躯は、奈良国立博物館に寄託されているため、
十二神将軍のうち通常、室生寺金堂に安置されているのは10躯のみです。
博物館に寄託されている2躯は、なら仏像館で展示されることがあります。
室生寺金堂の特別拝観の期間は
寄託された2躯が里帰りする(室生寺金堂に戻されて安置される)ことがあり、
その時は十二神将が12躯そろった姿を拝観することができます。